先日、「高級賃貸マンションがじわり浸透」という西日本新聞の記事を読みました。
福岡市では人口の増加に加えて、所得層の高い役員クラスの方々が転勤などで移住してくるケースもあり、
そのような層をターゲットにした高級賃貸住宅の建築が増えているようです。
ここで、「高価格にすれば利益が出るのか?」
という点について、少し検証してみたいと思います。
例えば、これまで家賃を10万円に設定していた物件があったとします。
このとき、原価が8万円で、月当たりの利益は2万円でした。
ところが、これを高級賃貸住宅に切り替え、最新設備などを導入して家賃を15万円に設定したと仮定します。
一見、家賃が上がって利益が増えそうに思えますが、
実際には建築費や維持費などの高騰により原価が13万円に上がってしまい、
結果として利益は以前と同じく2万円にとどまった、というケースもあります。
つまり、高価格の家賃を設定したからといって、必ずしも利益が増えるわけではありません。
加えて、高価格帯に設定することで入居者層の水準も高くなり、
それに伴い対象となる入居者数が限定される傾向もあります。
また、その高価格帯を将来にわたって維持するためには、
高水準の設備やサービスの維持管理が必要となり、それにかかるコストも高額になります。
このように考えると、高級賃貸への転換は単に「価格を上げれば良い」という単純なものではなく、
慎重な検討と戦略が求められることがわかります。
さらに、こうした高級住宅の場合、当然ながら減価償却費も大きくなりますし、
将来的な設備の更新費用も高額になります。
また、築年数が経過した際に、
当初のような高価格帯の入居者が継続して入居してくれるのかという不安も残ります。
したがって、不動産賃貸経営においては、目先の家賃の高さだけを見るのではなく、
中長期的な入居状況や資産価値を見据えて判断すべきでしょう。
もっとも、私のお客様のように「土地を保有し続け、守っていきたい」
と考えておられる方にとっては、このような視点が非常に重要となります。
一方で、建設後数年で売却を考える投資目的の方にとっては、
必ずしも同じ視点が必要とは限らないかもしれません。
つまり、その不動産をどのように活用していきたいかによって、取るべき戦略は大きく異なるのです。
この点には注意が必要です。
高価格な家賃設定ができたとしても、それに伴う減価償却費が増加すれば、
必ずしも利益が増えるとは限りません。
家賃が高ければ良いということではなく、「付加価値をいかに生み出すか」が重要になります。
費用をかけて設備を導入し家賃を上げても、必ずしもそのコストが家賃に見合うとは限りません。
むしろ、「お金をかけずにどのように付加価値を創出するか」、
あるいは「どのような付加価値を提供できるのか」という視点が大切になります。
これは簡単にできることではありませんが、
人口減少が進んでいくこれからの時代、不動産オーナーの皆さまはもちろん、
管理会社やリフォーム会社、建設会社なども、真剣に考えていくべきテーマだと感じます。
やはり、「付加価値を創る」ためには戦略的な発想が欠かせません。
私自身も、実際に現場で経営をされている皆さまから、
日々学ばせていただいています。
令和7年5月29日 税理士 髙島聖也